1.まずはお客様の『不安時間』を短縮
『漠然とした不安』に対抗するストーリーをリードする事を念頭において進める。
赴任者というのは、妻のこと、子供のこと、日本での生活開始時の煩雑なこと、ありとあらゆる不安を抱えて日本に下見にやってくる。そしてこの時期は不安が具体的でない程タチが悪い。この『漠然とした不安』状態のままでは住宅の決断に非常に時間がかかる。まずこの時間短縮を図れる会話展開を見い出さなければならない。
そのためには、例えば、
『今日は住宅の中身・つまり【広さと雰囲気】だけに集中してください』と提案する。
この提案後、本当に集中して考える人・どうしてもスーパーまでの距離が気になる人・住宅の設備が気になる人・騒音を特に気にする人、様々だが、
その『気になる』様々の事のうち、後でどうにでもなるようなことはその場で《それについては考える必要が無い理由》を述べてあげる。例えば衛星放送やケーブルテレビについてなら『どの物件に対しても設置可能ですよ』と安心させる。日本の衛星放送やケーブルテレビがどの程度のものか熟知していない人に、この時点で詳細を語ることに大きな意味はないからだ。
『なぜエアコンが無い』ということに関しても『無いことが多いので後からつけましょう』とすればよい。(企業の規定を十分把握しておくのは当然だが)
スーパーまでの距離は今日見せる10物件のうち歩けないほど不便なのはこれとこれだけ、のように赴任地の地域性・平均的な設備など心配しても意味が無いことを『心配する事では無い』モノとしてどんどん省いていく。
入居後の引越し時の荷物搬入について、このエレベーターは小さいけど大丈夫か?
のような質問にその場で真っ正直に調べ始めて1時間以上も無駄に過ごすという事が実際に起こり得るのだが、そうならないような会話展開でリードする事を考える。
徐々に赴任者が住宅そのものに焦点を絞るようになり、物件としては2~3が候補になり、初めて環境面、各場所からの距離感、そして設備的なコスト計算等からおのずと物件は1つに絞り込まれる。
このように案内業務の最初の重要なポイントは、『漠然とした不安』から解き放つことであり、そのためにはまず住宅さえ特定すればよいというストーリーを最初の半日に赴任者にイメージさせることだ。
半日でそれをするのは難しいが、そのような時間感覚を目標に案内業務を進めるとよい。
2.次に相手に受け入れられる自分のパフォーマンスは時間一杯使って
お客様の不安を取り除いて早く決断させるのは、あくまでもお客様の不安短縮のためであって、自分の時間の短縮であるとの認識を避けるべきだ。
決められた時間は目一杯使い、最高の結果を残す。
ついつい逃れようとする感情とは別に、その時間を有意義なものに工夫をする事。
客商売というのは皆そうかもしれないが、客と会って話すのが仕事であるため、当然神経を使う。『会わなくて済む』『早めに終わる』ケースで『楽できた』と思うのが人情だが、プロとしては失格だ。
不動産業者さんもそうだが、多くの営業マン(少し経験を積んだ)は、早く切り上げようという素振りになる。こういう人はもう成長しない。
そしてこういう営業マンに限って、説明・確認不足があり、後から何度も携帯に電話がかかるものだ。
例えば、
いくつ物件を見せてどんな説明をしてどれだけの時間を費やそうと決めたら、必ずその時間内を粘る。見せるものがなくなったらエリアを見せる。そのままだと気まずい雰囲気になるのを上手な話題で工夫する。そして忘れてならないのは、成約するためにこの客と同行しているということだ。物件を見せてさよならというのは仕事とは言えない。成約するためのお膳立てを制限時間一杯使って色々な球を打つわけだ。
不動産業者と違いコンサルタントの場合は、1日という単位でフィーを得る約束のうえ同行しているわけだが、それでもやることがなくなって、客も『解散しよう』となる時があるが、ここにももう一工夫足りなかったと反省するべきである。
時間を上手に使う。空いた時間に何かプラスになる会話、将来の商売につながる布石、客の事を考えた追加の好意、等。
逃げ場の無い同行中にそのような工夫を実行する人と、
早めに終わったから事務所に戻ってコーヒー飲んで他の仕事も早く片付けようと思い時間に追われる人と、
これは1年の間に大きな実力差として現れる。
3.営業が完結するまでの全ての会話を把握する。
待ち合わせで初対面の挨拶に始まり、世間話、当社について、全般商品概要、商品それぞれの長所短所、 ひとつの物件について、契約について、オプショナル的な付加的要素、アフターフォロー等、
いつ話したら響くのか、“旬”というものがある。
全般的な概要を話すべき時に、一商品の説明をしてはならない。
もちろん相手に聞かれた場合は順序が逆になってしまうこともある。しかし顧客に先回りして聞かれるということは既にテンポがずれていると認識して、その人のテンポにあわせた会話の流れを見抜く必要がある。
この全体の会話の流れを準備するには、まず顧客の要望をよく聞き、顧客が『この人はよく理解してくれているな』と感じている状況を作る。
そして顧客の要望に照らし合わせたような内容で全体の会話の流れを作る。
全般商品概要を説明する前にアフターフォローの詳細を話す方がいい場合もある。
そこがポイントだと分かるとそれ以外のポイントはこちらのペースで後で述べれば足りる。
そのペースに快適さを顧客が感じれば、営業マンのペースで語られる内容が全て顧客に入る。
契約する意思が固まっていない時と固まっている時に話す内容も違う。
例えば顧客は商品の説明の前に、既に営業マンに不信を抱いている時がある。
あるいはその会社・業界に不審を抱いている時がある。
その段階で商品説明をしても意味が無い。
全体の時間感覚とするべき会話の全体像が分かっていないために、
沈黙に負けて、今話すべきでない話をし過ぎてはならないのだ。
この物件を見ているときで他の物件もまだ気になっている時は、
この物件をほめすぎてはならない。
例えばこの物件のウラの桜がきれいですよ、というような話はタブーだ。
顧客の感情を捉えて、
その時必要なコメントは何かをよく考える必要がある。
エリアの比較を考えているのか、
宅内の狭さだけが気になっているのか。
考えている感情に対して刺激する。
それ以上の会話は、混乱を招く。
4.以上3項目が上手く行かないケース
どうしても決まらない時がある。
どんな物件を探してきても見るに値しないときがある。
そんな状況が続くと、業者側も未確認の物件を提供してくる。未確認とはつまり最終的に契約まで進めることができるかわかっていない物件だ。『空いていない』『契約できない欠点がある』『どんな家主か知らない』など。そのような見切り発信でも、『これはよさそうな物件ですよ』の言葉についつい期待してしまいがちになる。それを鵜呑みにして、外国人に、『良い物件が見つかるかも知れない』等と期待の安売りをしてはならない。
物件は無いときは無い。気に入らないと言っている時に、それ以上違う期待を植えつけてはならない。
こんな時大事なのは、それ以上墓穴を掘らないことだ。十分に物件を探し、確認業務など、こんな時こそ過程を省略せずに、物件情報を提供しなければならない。